鰻屋

参照:立川談志 「談志百席」

男が知人に酒を飲ませてやろうと言い出す。その男が以前鰻屋に寄ったところ、職人が出かけていて鰻を割く事ができないといって丸焼きの鰻を出されたので、文句をつけると酒をタダにしてくれた。今日もその鰻屋には職人がいないみたいだから、行ったらまたタダで飲めるかもしれないという魂胆だ。
鰻屋に行くと案の定職人がいないという。男は鰻を割くのくらい簡単だろうと言って自分で鰻を捕まえようとするがやっぱり捕まらない。今度は亭主がやってみると、ヌルヌルと手の間から滑り出て、それをまた捕まえようとして鰻を追いかける格好に。
どこに行くんだ?と聞かれて、「前に回って鰻に聞いてくれ」。


土用の丑の日という訳で、スーパーに行くといつもは魚を置いているコーナーが全て鰻のパックで埋まっている。その横では生きた鰻をどんどん割いていてそれも蒲焼にするのだろう。日本人は鰻が好きなんだな。


子供の頃に一度だけ鰻を捕まえたことがある。勿論天然の鰻で、潮が引いた海と川が交わる辺りで見つけたのだ。その時やはり素手で捕まえようとしたのだが、ヌルヌルと滑って随分苦労したと記憶している。そんな経験もあって、この落語のシーンは決して誇張なんかじゃなく、自分の体験とダブってイメージできる。
今ではその場所はコンクリートで覆われてしまっている。便利さを手に入れるのと引き換えに失っていくものがある。失うものは後にならないと気がつかないものか。