夏の医者

参照:桂枝雀

夏の暑い盛りに畑仕事をしていて親父さんが日射病か何かでぶっ倒れてしまう。医者を呼ぶことになるが、無医村なものだから、ある男が山を越えて隣村まで医者を呼びにいく。どうやら昨日の残りのちしゃを食べたのが原因ではないか、夏のちしゃは腹に障るというから、という診断に落ち着く。
男が医者を連れて山路を戻ろうとしていると、二人ともウワバミに飲み込まれてしまう。ウワバミの腹の中に下剤をまいて、二人とも尻から出ることができるのだが、腹の中に薬箱を忘れてきたことに気がつく。仕方が無いのでもう一度ウワバミの腹に入って取りに行こうと、ウワバミにもう一度飲み込んでくれと頼むのだが、ウワバミは暑さと下剤でゲッソリとして、「駄目だ。夏の医者は腹に障る」と。


それで大きな蛇に飲み込まれるというシュールな設定で、これが本当なら恐ろしいことになってしまうのだが、コミカルに描かれている。噺の展開が絶妙で、安心して聞いていられるというか、笑わせてくれるのが判ってくる。現実ならただの蛇が出てきても気味が悪いはずだが、あまりに現実離れしているから、いくらでも面白い情景をイメージすることができる。枝雀の語り口がそんな風に誘ってくれる。


子供の頃、「おひぃさんが、カーッ」と照りつける夏にやる事の定番の一つといったら、蝉を捕まえる事だった。蝉には餌をあげることが出来ないので何日も飼う事はできず、大抵は次の日にはぶっ倒れていた。なのでその日の内には逃がしてあげてたのだが、また次の日には取りに行ってたりして。要するに取ること自体が遊びだったのだ。
日が暮れるころに裏のみかん畑に行って、蝉の幼虫が羽化しようと地面に出てきた所を捕まえて、家で羽化するところをじっと観察したりもした。目が離せない変化だった。
自然と向き合うと、いくらでも遊ぶことができる。