彼岸過迄/夏目漱石

普通に冒頭から読み始めたところなかなか気分が乗ってこない。情景をつづっているだけで登場人物の感情の起伏がなくて話の展開が見えないのだ。余程読むのを止めようかと思うのだが、後期三部作の始まりとあっては、これからこれらを読もうというからにはスタートで投げ出してしまうのもなんだか面白く無い。
文庫本裏表紙のあらすじに出てくる箇所をパラパラとめくって、「須永の話」の章からがそれらしい展開のようなので、思い切ってここから読むことにする。半分を読み飛ばすことになるがまあいいか。

この作戦があたってそこからは引き込まれて読み進んだ。従妹を好きなのだがそれを素直に認めることができない気位の高い男と、やはりその男のことが好きなのだがヒラリとかわしてそれを表に見せない女の話。お互いが自分の気持ちを口に出して爆発させるところでやっと二人の関係が見えた。
精神面でひ弱な印象がある男だが、誰だって強い面ばかりがある訳ではないのだ。男はさらに自分の生い立ちを知り戸惑うことになるが、自分の今の性格から一歩抜け出したいと旅に出て、糸口をつかんでいくのが救いである。