時そば

ある男が蕎麦屋に入って蕎麦を一杯注文する。男は口が達者で箸、器、出汁、麺などをことごとく褒めて会話を切らさない。支払いの段になって、小銭で払うと言う。一つ二つ三つと八つまで数えると、「今何時?」と聞き「九つ」という答えに続いて、十、十一とやってうまく一文ごまかしてしまう。

それを横で見ていた別の男、これを真似てみない手は無いとばかりに翌日に別の蕎麦屋に入る。この蕎麦屋はことごとくがひどくて味わうどころでは無い。それでも支払いはごまかしてやろうと、昨日の男を真似て、一つ二つと数え八つの後に「今何時?」と聞くが「四つ」と答えが返って来て、「うーん、五つ六つ・・・」と。

落語で笑いを誘うやり方の一つが、気が利いた人の真似をするのだがそのまんまをやるだけで、相手の反応に合わせることができないでどんどんはまっていく、というパターンだ。現実の世界では有り得ない、間が抜けた様子が面白いのだな。