目黒のさんま

お殿様が家来を連れて遠乗りすることになる。腹が減ったので弁当が無いか?というのだが勿論そんなものは無い。丁度その時近くの家で秋刀魚を焼く匂いがしてきたものだから、それを持って来させて食してみるとこれが結構旨い。だが、これは貧しい者が食べる魚だからといって、食べたことは言わないように家来に諭される。
それでも殿様は秋刀魚の味が忘れられない。ある時食事に招かれた際に何でも好きなものを頼めるという事なので、これ幸いと秋刀魚を頼む。頼まれた側はそんなものを頼まれると想ってなかったものだから食材が無い。急いで買いに行って、脂が多過ぎるだろうと蒸して脂を落として、小骨が多いといってそれを抜いて、訳が判らなくなったので結局吸い物にしてしまう。

口にした殿様、以前食べた秋刀魚とは全く違うものが出てきたので怪訝ながらも口にする。それでこの秋刀魚はどこで手に入れたのか?と。日本橋だという回答に、「いかん、秋刀魚は目黒に限る」。


秋刀魚は上等な魚では無いので身分の高い人は普通は口に出来ないという訳なのですね。それを聞いた上でもう一度食べたいという殿様は結構無邪気な性格なのだろう。更には目黒の秋刀魚が旨いという。これは薀蓄というよりも、旨い秋刀魚を食べられなかったから、どうしても口にしないではいられなかったのだろう。