鰍沢

参考:三遊亭圓生 六代目

身延山参りを終えて帰路についた旅人、鰍沢の船着き場に向かっている途中雪道に迷い、一軒の民家に泊めて貰うことになる。民家にはまだ若い女がいて、その女は昔江戸で花魁をやっていたのだが、心中にしくじってその後ここに移り住んだのだということ事が判る。
女の事を気の毒に思った旅人は二両を女に渡す。
女は旅人に玉子酒を振る舞い、旅人は酔って隣室で寝ることにする。
女は酒を買いに出、入れ替わりに帰ってきた女の亭主は玉子酒の残りを飲むと苦しみ始める。なんと玉子酒はしびれ薬が入っていて、女が旅人の金を踏んだくろうとしてやった事だった訳だ。
旅人はその話を聞いていて、毒消しを飲んで逃げ出す。ところが女は鉄砲を持って追いかけてくる。旅人は雪山から滑って筏に落ちて、バラバラになった丸太につかまって流れ始め、南無阿弥陀仏をひたすら唱える。女が鉄砲を撃つと弾は旅人をかすめていく。旅人、「一本のお材木(一片のお題目)で助かった」。


身延山日蓮宗の総本山があるところで、旅人は江戸から参ってきていたことになる。昔、身延あたりに泊まった事があるのだが、周りを山に囲まれた土地だった。雪に覆われて吹雪いている光景も何となく思い浮かべる事ができる。
冬山を舞台に、男が雪の中を鉄砲を持った女に追いかけられるっていうのは、なんだかサスペンス・ドラマを見ているみたいでちょっと緊張感のある光景だ。


この噺は、三遊亭円朝が三題噺で作成したものだそうだ。三題噺というのは、客席から三つ「お題」を出してもらい即席で演じというもので、この時のお題は「鉄砲」「卵酒」「毒消しの護符」。お題を貰ってからおそらく一時間かそこらなのだろうが、三十分にも及ぶ話をよく纏められるものだ。

さて、この噺、旅人が玉子酒を飲んでから以降は旅人の夢だったのでは無いか?と思うのだ。第一に、女が客に毒を飲ませた後に、のんきに酒を買いに出かけるものだろうか。第二に、毒で旅人が苦しがるよりも先に亭主が苦しがるのは時間が逆転している。第三に、筏に落ちた拍子にそれがばらばらになるのは出来すぎている。
これが全て夢だった、とするとうまく収まるように思うのだが、どうだろうか。