経済は感情で動く

タイトルに引かれて何気なく手にしたのだが思わぬ知的な広いものをした気になる。経済と言っているが、単に経済という分野に縛られている訳でなく、人が意思決定をする時の基本的な様式に触れている。

経済は感情で動く−はじめての行動経済学/マッテオ・モッテルリーニ/紀伊国屋書店

原題を直訳すると「感情の経済学」。人は必ずしも自分の利益が最大になるように動く訳ではなく、これは数学では説明することが出来ないが、実験を繰り返すことで幾つもの原理があることを発見している。

沢山の事例とその解釈・教訓が登場するのだが、中でも次の三つの示唆には興味を引いた。
一つは、人は合理的な判断をしようとするのではなく、「合理的判断をしたと自分で正当化できるもっともな理由」を求めている、という事。
もう一つは、人は自分に都合がいい結果が出る事に期待をかける、という事。
更にもう一つ。判断に人が絡んでいる時には複雑になる。道徳的な感情が働いたり、相手の出方を読んだり、という具合に。

キーワードも沢山登場する。

  • 選好の逆転(preference reversal):タバコが将来の健康に悪いと判っていても目先の一服は止められない
  • 保有効果(endowment effect):自分が保有しているものに高い価値を感じて手放したがらない
  • コンコルドの誤謬(mistake of Concorde):開発途中で採算が取れないことが判ったにもかかわらず開発は突っ走った
  • アンカリング効果(anchoring effect):最初に印象に残ったことがその後の判断に影響する
  • 少数の法則(law of small number):試行回数が少ないのに大数の法則が当てはまると思う。コインが連続三回裏がでると次は表が出ると考える
  • 後知恵(hindsight):何かが起こってからその原因に言及する。その真因に踏み込まない思考停止。
  • ヒューリスティック(heuristics):直感。バイアスにもなりえる諸刃の刃
  • フレーミング効果:生存率95%と提示されるのと死亡率5%と言われるのとで、捕らえ方が異なる
  • 後悔回避(regret aversion):短期的には失敗した行為、長期的にはやらなかった事、に対して後悔する
  • プロスペクト理論(The Theory of Prospect):利益、損失が大きくなると変化に鈍感になる。同額だと利益よりも損失が大きいと感じる
  • 自信過剰(overconfidence):悪い事態が起きる確立を過小評価
  • 最後通牒ゲーム:利己主義では説明できない。公平、誠実、正義、といった価値観
  • 道徳的ジレンマ:五人を助けるために一人を突き落とすことにためらう
  • 視線のカスケード:悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ

直感と合理的な推論とが、上手く対話させることで調整を取ることが実際に脳の中で起こっている、というのはその通りだろう。そして、人はなるべく得をしたいと考える一方で、あまり努力しないで済ませたい、のが大方の人達の自然体という事でもある。頭の中の思考を、こんな風に客観的に見る学問があることを知ることができたのはラッキーだった。