利他性の経済学

何かの講演会で本のタイトルを知ったのがきっかけで興味を持ってしばらく前に購入したもの。購入したのはいいのだが、そもそも経済学という分野を勉強したことも無いので、本書を読んで消化できるかどうかが気になって、そのままにしたいた。

利他性の経済学―支援が必然となる時代へ/舘岡 康雄/新曜社

産業革命時代に大量生産を実現するために分業が進み、全体システムが滞り無く流れるように管理する行動様式が重要視さえたわけだが、それは

  • 多量に造ったものが売れる売り手市場である
  • 計画の前提が変わらない(変化がゆるやか)
  • 人間の生産性は単純な繰り返し作業の方が大きい

という前提がある。
所が、BRICsの台頭が象徴するように誰でも安く作れる時代にあり、情報産業などの分野ではそのパラダイムが大きく変化しつつある状況においては、先のような前提を置くことが難しい。

このような状況において、舘岡氏は、「支援する」行動様式こそがブレークスルーに繋がるとといている。例えば、消費者が望むものを開発するには、消費者がしたいことを「支援する」発想が重要だというだ。

企業内においてある部門が自部署の問題解決の為に最適解を求めるという様式では、今や競争ルールが変わろうかというときには太刀打ちができない。そこで相手が変化することに合わせて自らも変化するという、利他的な価値観が求められる。これを同氏はプロセス・パラダイムと呼んでいる。


同じような問題解決にマトリクス組織論などがあるが、本書の理論はその先を行こうとしている。支援というパラダイムが共通の基盤になれば理想的な関係が築かれていくことだろうという事においては大いに賛成する。同氏のこの理論のベースとなっている「支援」という着眼点も独創的だ。

だが、この理論は調べた限りではまだ普及途上のようだ。またその為か、実践的なアドバイスに欠けているのが残念なところ。どうすれば支援する/される関係が、組織で、国の間で、家族間で構築されていくのか、どのような環境を作ればよいのか、そこが見えないのだ。そこに踏み込んでいかない限り、ただの理論で終わってしまいかねない。