愛宕山

参照:特選!! 米朝 落語全集 第八集
   枝雀落語大全(31)


愛宕山の冒頭で一行が出かける時の描写がとても気に入っている。

ぞろぞろと一同が共をいたしまして鴨川を渡ります。どんどんどんどん西へ進んで二条のお城のしりめにころして、野辺に出てまいりますというと、なんし春先。遠山には霞がたなびいて、空にはひばりがチュンチュンとさえずっていようか、下には陽炎が萌えていようか。蓮華、タンポポの花盛り。麦が青々と伸びて菜種の花が彩っていようという中、やかましゅうてやって参ります、その道中の陽気なこと。
<特選!! 米朝 落語全集 第八集>

噺の続きで弁当を食べる場面が出てくるので出発は午前なのだろう。春の陽気が上手く表現されている。京都の春の野辺は見たことも無いし、もし見たとしてもきっとこの噺の頃(米朝氏によると明治初期だそうだが)とは随分と違っているのだろうが、その場面が四方を取り囲むような光景として自然と浮かんでくる。
落語はしゃべりだけで判らせないといけないので、当たり前と言えば当たり前なのだろうが、聞く方に判ろうと努力させないくらいの表現なのがいい。

そういえば蓮華(ゲンゲとも言う)は子供の頃は田んぼに植えられていたものだ。これは蓮華が空気中の窒素を取り込むので、それを田植えの前に土に混ぜ込んで肥料にするためだ。今では田んぼ自体が少ないし、蓮華が植えられているのは見る事は全くない。公園に花が咲いているのをたまにみるくらいか。

春というと枕草子の第一段が有名で、こちらも朝早い静かな情景が目に浮かぶようでいい。が、愛宕山に比べると、どこか気取った感じがするのだがどうだろうか。