道灌

参照:三遊亭金馬
   落語百選 夏/ちくま文庫


道灌とは、室町時代の武将、太田道灌の事。

八っつあんがご隠居さんの家を訪ねる。ご隠居さんは書画が趣味で沢山の屏風を持っている。その一つに、雨の中を鷹狩りの姿をした武将と、お盆に黄色い花を載せた女が描かれた作がある。これはこういう話を絵にしたもの。
太田道灌が鷹狩りをしている最中に雨に降られ、雨具を求めて民家に立ち寄ったところ、その家の少女は口では答えないで山吹の枝を折って差し出す。道灌は文武両道なのだがそれが何の事か判らなかったのだが、歌に心得のある家来がその謎を解く。

七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき

兼明親王の古歌の、"実の"を蓑にかけて、雨具が無いと伝えたかった訳だ。

八っつあんはこの話を気に入って、自分もその歌を誰かに試してみようと、ご隠居に歌を書いて貰って家に帰る。早速知人がやってくるが、雨具は持参していて提灯を借りたいという。枉げて、雨具を貸してくれと言って貰って先の歌を披露するが、残念ながら知人は判りっこない。八っつあんは「歌道に暗いな」というと、知人は「角が暗いから提灯を借りにきた」。


鷹狩りに出かけたのだから場所は里山のようなところなのだろう。季節は春で新緑もまだ淡いころのはずだ。雨の振る中、鮮やかな黄色い山吹の花がくっきりと目に浮かぶ。後半の八っつあんと知人のやり取りは無くてもいいんじゃないだろうか。それでも十分味わえると思うのだが。
引っかかっているのは、少女は何故こんな謎をかけたのか。蓑も持っていないほど貧乏をしているのが恥ずかしくて口に出せなかったのだろうか。あるいは遊び心で謎賭けがわかるかどうか試そうとしたのだろうか。勿論、少女の歳は二八、つまり十六歳なので、前者の方がいい。