船徳

音源:古今亭志ん朝


偉い人あるいは身分の高い人が何か新しい仕事を始めようというのは、仕事を面倒見る人達にとっても本人にとってもあまり都合がいい事じゃない。周りの人達は気を遣って、教えてやろうって感じで指導するのも具合が悪く、じゃあ勝手にやってもいいですよなって事にしてしまうと、お客さんに迷惑が掛かっていけないので、それも出来ない。結局、腕を磨く場が無くなってしまうもんだからなかなか上達しない。

だがこの主人公の徳さん、一人前の仕事が出来るようになるらしい。この続きは「お初徳兵衛」に描かれていて、滑稽な「船徳」から一転して、ストーリーの展開は人情噺になるみたいだ。また今度聞くのが楽しみだ。


舟弁慶」に登場する船は食べたり飲んだりする屋形船だが、徳さんが漕ぐ船は恐らくもっと小さいもので、人を乗せてどこかに運んであげるためのもので、いわば川のタクシーとでも言おうか。矢切の渡しは有名だが、ああいったのが、江戸の川伝いに、少しでも歩く距離を短くしよう、暑さをしのごう、という人達が使っていたのだろう。


江戸の川事情はどうだったのか。少し調べて判ったのは、江戸は元々が入り江で、徳川家康がそれを埋め立てたという起源だそうだ。東京湾の埋め立ては江戸時代前から始まっていたとは知らなかった。その時に船での交通を考えて水運を整備したのだろうか。
今ではそんな水運も必要無いって訳で、多くは埋め立てられてなくなり、残った川もコンクリートで護岸されてしまって、いい町並みを失ったのは少し残念なことだ。