茄子娘

音源:九代目 入船亭扇橋


戸塚宿から一里ほど入った鎌倉山の山間の寺にいる一人者の和尚、本堂の脇の畑で野菜を作っているのだが、なかでも茄子が大好物。
和尚が寺祭りの前日に蚊帳に入って寝ようとしていると、若くて綺麗な娘が現れるのだが、茄子の精だと言う。可愛がってくれているので肩を揉んで貰っているいるうちに、雷に驚いた娘が和尚に抱きつくと、そのまま一夜を明かす。和尚はまだまだ修行が足りないと反省し、雲水の旅に出る。
5年経って寺に戻ってくると小さな女の子が「お父様」と話しかけてくる。以前の茄子の精と和尚の間の子供で、一人で大きくなったと言う。「親はナスとも子は育つ。」


秋茄子は嫁に食わすな、と言う。今では年中いつでも茄子は手に入るが、そもそも茄子は夏野菜のはずだと思うのだが。調べて見ると、通常の茄子を育てていると夏には全体が弱ってくる、そこで強剪定すると新芽が伸び始めて、秋になると皮が薄くてやわらかく実がしまってた茄子が収穫できる、という事だ。一つの苗からなるべく長い間、なるべく沢山の茄子を収穫しようという知恵から生まれたものなのだろう。


サゲを綺麗に洒落で決めているので、思わずにやりと笑わせてくれる。考えてみると、茄子の精とは奇妙な話で、どういう事からそんな設定になっているのか不思議だ。本当は何の精でも構わなかったのだが、案外最後の洒落を言いたくて、茄子にしただけだったりして。