戻り井戸

ある男が気がつくと井戸の中にいる。何が起こったのか判らないまま助けを呼ぶと、近くを通った農家の二人が助けてくれ、家にいって気付け代わりにと酒を振舞ってくれる。はじめは今の都会は田舎を見習うべきだとか、世の中はおかしな方に向かっている、といったような事を言っているのだが、酒を飲んで酔うにつれて逆に悪態をつき始める。
すっかり酔っ払って眠りこけた所を、気分を悪くした農家の二人は、男を井戸に戻してしまう。男が目を覚ますと当たりは真っ暗で。。。


なんとも奇妙な結末で、大概のサゲは洒落だったりハッピーエンドだったりするものだが、この落語の場合は天罰が下ったとでも言うような状況になった訳で、そこには笑いとか安堵感とかいったものは何も感じられない。何かの教訓を与えるような狙いなのだろうか。芥川龍之介蜘蛛の糸を連想させられた。

この作品は桂枝雀が自作したものだそうだ。マクラでカフカの変身を取り上げており、何かそこから得たものがこの落語になったのであろう。
この落語に続きがあったとして、男はどうなってしまうのだろうかという事も興味が沸いてくる。酒を飲まして貰ったのはあれは夢だったのかと疑うのだろうか。後で誰かに助けられて酒を勧められたらどう反応するのだろうか。もう一度酔っ払ってしまって井戸から抜け出すことができなかったりして。SFみたいな世界を想像させてくれる。